「――クリスマス?」
その話は2ヶ月くらい前から延々聞きあきたと言うか、そもそも俺はクリスチャンではないので何故それを祝う気持ちになるのかは今一つ分からない。ある意味稼ぎ時と言うことになるからないがしろにはできないのは分かっている。
でも実際のところ、俺にとっては、クリスマスは唯が喜ぶ日、くらいの認識だ。もう結構前からサンタクロースを信じていなくて、それはちょっとつまらなくなってしまったのだけれど。
――話が逸れた。
俺じゃなくて。彼女は。三人称のそれだけじゃない『彼女』は、割にロマンティックなことが好きらしく、当日じゃなくって良いからお祝いしようよ、ってにっこりと笑いかけてきた。
「……キリストの生誕を……?」
つい怪訝そうに聞いてしまったところ、彼女は少し頬を膨らませる。
「もう、裕真くんてば、何て言うかこれは日本人らしく、雰囲気を楽しむって感じ! 可愛いんだから、街とか歩くだけでも」
「――ふうん」
頭の中の予定表を広げてみれば。ええと、空きは……駄目だ、今日もこの昼ごはんを食べ終えたら行かなくちゃいけないし、後は終業式に少し顔を出すのと、その次は正月明けだ。
――まあ暇よりかは全然良いんだけど、なかなかうまくいかない。折角喜ばせたかったのに。
仕方なく、正直にスケジュールを述べる。するすると彼女の顔が曇っていくのが分かった。――ああ。
……と。
す、と手を伸ばして、彼女が俺の頬に一瞬触った。僅かに冷たいその感触に思わずびくりと肩を震わせると、彼女と目が合う。彼女は綺麗に微笑んでいた。
「まあ、じゃあ仕方ないよね。代わりに初もうで行こう!」
――あのね、わたし調べたの、ここ、裕真くん用だと思うんだ。
言いながら彼女が見せてくれたのは、小さなガイドブックだった。
「ここ、コノハナサクヤヒメのとこ、みんな行くんでしょ? きっと人が多いからわたし達が行っても不自然じゃないよ」
「……」
ああ。何て言うか。喜ばせたいと思ったのに、むしろ喜んでいるのは俺の方だ。
だから嬉しくて、素直にありがとうと口にした。だのに、何故か彼女はずるいと呟いて俯いてしまって――何でだ……?
悪戯心が湧いてきて、先刻彼女にされたみたいに――否、それ以上か――両手で彼女の頬を挟み、顔を強引にあげさせる。
彼女の眸に映る俺を見ながら、すごく嬉しいと呟けば、彼女ははにかんだ後、わたしも、と返してくる。
……結局、それ以上見ていられなくなって、先に目を逸らして、かつ手を離したのは俺の方だった。
「ふふ、楽しみだなあ、初詣。――あ、先に言っとくけど、晴れ着とかは着ないよ? て言うか、持ってないけど要らないよ?」
「……」
しっかりと釘を刺されたのは残念だけど。
楽しみだ、本当に。 |